「イワナの英名」
イワナ属魚類の英名は「チャー」といいます。そのスペルは、「r」が1つの場合もあれば、2つの場合もあります。どちらが正しいのでしょうか。かつて、その英名の綴りをめぐってScience誌に記事が掲載されたことがありました。昔の綴りは「charre」で、1893年版のオックスフォード辞書には「Charre; charr; char」と記されています。
ヨーロッパでは「charr」、北アメリカでは「char」のようです。Common and Scientific Names of Fishes from the United States, Canada, and Mexicoでは「char」、List of the Common and Scientific Names of Fishes of the British Islesでは「charr」と表記されます。事実、イギリス水産学会のJournal of Fish Biology誌に掲載される論文は「charr」が用いられるのに対し、カナダやアメリカ水産学会のCanadian Journal of Fisheries and Aquatic Sciences誌やTransactions of the American Fisheries Society誌では概ね「char」とされています。
カナダの学術誌に「charr」と綴った論文を何度か投稿したことがありますが、いずれも編集者から「char」にするように指摘がありました。一方、「char」と綴った論文をヨーロッパの学術誌に投稿したときには「charr」にするように指摘されました。とくにこだわりのなかった私は、いずれも指摘にしたがいました。ところが、カナダの学術誌であるにもかかわらず、「charr」と綴った論文があります(Jonsson & Hindar 1982)。その著者はヨーロッパの著名な研究者で、その論文の脚注には次のような但し書きがあります…「本論文で用いられているイワナの綴りは標準英名と異なるが、著者らによって好まれた」。
参考文献 References
Morton, W. M. 1955. Charr or char―history of a common name for Salvelinus. Science, 121: 874–875
Morton, W. M. 1980. Charr or char: a history of the English name for members of the salmonid genus Salvelinus. Pages 4–6 in E. K. Balon ed. Charrs. Dr. W. Junk Publishers, Hague, Netherlands.
Jonsson, B., and K. Hindar. 1982. Reproductive strategy of dwarf and normal arctic charr (Salvelinus alpinus) from Vangsvatnet Lake, Western Norway. Can. J. Fish. Aquat. Sci., 39: 1404–1413