「イワナとヤマメのすみわけ」
イワナはヤマメよりも上流の冷たい水温帯に多く分布します。その理由として、1951年に今西錦司が提示した水温を原因としたすみわけ説が世間には広く浸透しています注。しかし、上流と中流の違いは水温だけではありません。上流は急勾配ですが、そのために落ち込みや渦が多く、流れが緩やかな場所が増えます。一方、勾配が緩くなる中流は流れの速い場所が多くなります。イワナは流れが緩やかな場所を好む傾向にあり、川の上流域においても、そうした遅い流れをイワナは選択して暮らしています。一方、ヤマメは流れが比較的早い場所を好みます。中流よりもさらに下流域になると再び流れが緩やかになりますが、そういった河口の近くで、再びイワナが少し増えることもあります。
分布の南限はヤマメの方が低緯度まで分布しますが、分布の北限をみると、ヤマメ(サクラマス)の方がむしろ低水温の高緯度まで勢力が強く、ヤマメの方がイワナよりも低水温に弱いということはなさそうです。
すみわけといっても、イワナとヤマメの分布がはっきりと分かれていることは少なく、種組成が上流にかけて徐々に変化するのであって、広い範囲において両種は混生しています。
(注)河川形態を区分(Aa型、Bb型、Bc型)したことで著名な可児藤吉は、1939年に著した『王滝川の動物生態学的研究Ⅰ』のなかで、イワナとアマゴの置換は河川形態と対応していること具に述べています。この指摘は、今西錦司(1951)以後のイワナ研究者の考え方と一致します。
参考文献 References
可児藤吉. 1939. 王滝川の動物生態学的研究I. 可児藤吉全集 (1970), pp. 123–173. 思索社, 東京.
今西錦司. 1951. イワナとヤマメ. 林業解説シリーズ, 35: 275–301.
山本 聡. 1991. イワナその生態と釣り.つり人社,東京.
丸山 隆. 2005. 淡水の環境. 谷内 透・中坊徹次・宗宮弘明・谷口 旭・青木一郎・日野明徳・渡邊精一・阿部宏喜・藤井建夫・秋道智彌(編), pp. 224–242. 魚の科学事典, 朝倉書店, 東京.
Morita, K., G. Sahashi and J. Tsuboi. 2016. Altitudinal niche partitioning between white-spotted charr (Salvelinus leucomaenis) and masu salmon (Oncorhynchus masou) in a Japanese river. Hydrobiologia, 783: 93–103.