「母川回帰性と母海回帰性」

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サケもウナギもふるさとに帰る

サケ科魚類は、生まれた川に帰ってくるという本能を持っています。地磁気や太陽コンパスを利用して沿岸域まで近づいた後、河口近くからは生まれた川の匂いを辿って上流へ遡上(そじょう)します。

サケの母川(ぼせん)選択率はきわめて高く、北海道の主要河川における他河川由来の迷入個体の割合は平均で0.24%、最大でも2.24%と推定されています。さらに、水系内の支流レベルでも高い精度で母川回帰性があることが十勝川や石狩川で明らかとなっています。例えば、石狩川水系の千歳川では、毎年3000万尾の稚魚が標識放流され、10~20万尾の親サケが遡上します。一方、同じ石狩川水系の豊平川は、石狩川本流との合流点の距離で千歳川と10kmほどしか離れておらず、サケの遡上数は1~2千尾と千歳川のわずか100分の1です。そのため、札幌市内を流れる豊平川に遡上するサケは千歳川からの迷入魚ではないかともいわれていましたが、調査の結果、千歳川由来の標識魚はほとんど見つからず(1%以下)、豊平川に遡上してくる1千尾ほどのサケは豊平川由来であることが明らかとなっています。

匂いの記憶、すなわち、生まれた川の匂いの刷り込み(記銘)は、生まれた時に生じるのではありません。スモルト化して川から海に下る短期間に生じると考えられています。そのため、生まれた川と異なる別の川に移殖放流すると、移殖先の川で記銘が生じます。ただし、浮上直後に降海(こうかい)するカラフトマスは例外で、記銘は浮上前の仔魚期(≒生まれた時)にも生じることが知られています。

サケやサクラマスは基本的には産卵のために川に遡上しますが、イワナの仲間は越冬のためにも川を遡上します。産卵のための遡上は生まれた川ですが、その他の目的の遡上は生まれた川とは限りません。越冬などの別の目的で母川以外の川に遡上する場合は、迷入とはいいません。

ウナギ科魚類は、育つ川は母親が育った川とは限りませんが、繁殖時には生まれた産卵場所の海域へ戻ります。産卵場が外洋にあるために産卵場所を特定するのがむずかしく、その産卵生態は謎が多いとされてきました。

ウナギ科魚類の産卵場が最初に発見されたのは大西洋のヨーロッパウナギとアメリカウナギで、デンマークの海洋学者がサルガッソ海に産卵場があることを突き止めました。日本では1930年代からニホンウナギの産卵場調査が開始され、1991年にマリアナ西方海域にあることがわかりました。その後、2008年に産卵親魚、2009年に卵が初めて発見されました。

繁殖するときには生まれた場所へ回帰する習性と考えると、サケ科にもウナギ科にも共通して備わっているといえます。


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